第3回研究会 2022年1月27日

第3回研究会を開催しました

長田新子氏を招き開催、「共感」をキーワードにブランド創造の要諦を熱演

2022年1月27日、一橋ビジネススクール三枝匡経営者育成基金による第3回戦略的経営者研究会が、一橋大学千代田キャンパス大講義室での対面講演とオンラインライブ配信による「ハイフレックス形式」で開催されました。今回はMBAプログラムの在学生と修了生より、合わせて130名を超える参加申し込みがありました。
テーマは「共感を生みだすブランドストーリーのつくり方」。講師の長田新子氏はAT&T、ノキアを経て、2007年にレッドブル・ジャパンに入社しコミュニケーション統括責任者、マーケティング本部長(CMO)を歴任。現在はNEW KIDS株式会社代表、一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局次長などを務めています。

エナジードリンクという新市場を創造し、ブランドを築く

長田氏は、ご自身のキャリアに沿って二つの軸で議論を展開しました。一つ目はレッドブルの事例。日本にまだエナジードリンクという言葉すらなかった時代に、いかにして新たなカテゴリー(新市場)を確立し、ブランドを築いていったのか。二つ目は、渋谷区の外郭団体「渋谷未来デザイン」がまさにいま取り組んでいる、渋谷という街のブランディングです。エナジードリンクと街、2つの全く異なるジャンルのブランディングの共通点は何か、映像を駆使しながら長田氏は解き明かしていきます。
冒頭で長田氏は、レッドブルの缶が2本おかれただけのシンプルなスライドを示し、「自社にあったのはこれだけでした」と語り始めました。「この会社のユニークさは、このたった1つの商品について、機能性を訴求するのでなく、その価値をライフスタイルの中にどう浸透させていくかを徹底的に深掘りしたことにある」。そこで大事なのが、よく知られるブランドメッセージ「レッドブル 翼をさずける(Red Bull Gives You Wings)」の理解です。そこには人々に共感し、人々のチャレンジやアイデアの実現を応援する、後押しするという意味が込められています。いかにこのメッセージを表現し、活動において展開していくことかをずっと考えて行動していました。

体験の場をつくり、共感を呼ぶストーリーを生み出す

レッドブルでは人々の「体験の場」として、様々な自社主催のイベントを開催してきました。その代表例が、レッドブル・エアレース(Red Bull Air Race)。空・海・陸それぞれに関する厳しい許認可の取得など数年がかりで準備を進め、2015年に初めて日本開催(会場は千葉県・幕張海浜公園)を実現させます。主催イベントでは、テーマに合わせてレットブルのロゴをアイコニックな形で展開しましたが、エナジードリンクの「飲用体験」など直接的なブランド訴求に加えて、「日本人パイロット」をフィーチャーして共感を呼び込むことにも力を注ぎました。エアレースで唯一の日本人パイロットである室屋義秀選手とは2007年からアスリート契約を結んで息の長い支援を行ってきました。室屋選手は日本大会開催3年目の2017年には見事、ワールドチャンピオンに輝きます。
同じ2017年の日本大会では、ロックバンドGLAYをアンバサダーに迎え、テーマソング「XYZ」を書き下ろしてもらうなど、アスリートとアーティストの“共演”も実現。Air Race当日に、隣接するGLAYのライブ会場の真上を、ちょうど「XYZ」を演奏している時にメディア向け体験フライトの飛行機が飛ぶという“奇跡の瞬間”が生まれました。これは事前に仕込んだものでなく、たまたまタイミングが合ったということだそうですが、この唯一無二の体験は口コミ(WOM:Word of Mouth)やSNSで全世界に拡散し、レースを独占放映したNHKだけでなく、民放のニュースでも取り上げられるなど、絶好のコミュニケーションコンテンツとなりました。長田氏は「1つのイベントからどんなストーリーがつくれるのか」、つまり、ストーリー探しの重要性を強調しました。
他にも、誰も知らなかったシーンを一緒に大きくしていった例として、「ブレイクダンス」を挙げました。2010年に代々木体育館で「Red Bull BC One Tokyo 2010」を開催した当時は、若い世代にこそ熱狂的なファンがいたものの、まだ一般的な認知度は低い状態。それが2024年パリ五輪では正式種目に決定し、一躍ブームが巻き起こっています。「自分たちがサポートしていた選手が世界チャンピオンになるかもしれない。そこには大きなストーリー性がある。企業と消費者が一緒に育てていく過程で共感が生まれ、ブランドも浸透していく。それがマーケティングの醍醐味であり、ブランディングの醍醐味です」。

渋谷の未来は日本の未来

講演の後半では、2018年に創設された「渋谷未来デザイン」の事例が紹介されました。きっかけは、街の将来性に対する地元渋谷区の危機感。現在100年に1度といわれる大規模再開発が進み、“若者の街”として脚光を浴びる渋谷ですが、多くの自治体と同様に、人口高齢化・減少など、課題も山積しています。街が常に進化し、このブランド価値を絶え間なく向上させるには、自治体だけでなく、住む人・働く人・学ぶ人・訪れる人、産官学民が連携するプラットフォームが必要と考えたのです。現在、100社以上の民間企業が参加し、「多様性あふれる未来に向けた世界最前線の実験都市『渋谷区』をつくるイノベーションプラットフォーム」をキャッチフレーズに、「創造文化都市事業」「スマートシティ事業」「ダイバーシティ&インクルージョン事業」など7つの分野で様々な社会実験が行われています。
その一例が、2018年から毎年開催している「Social Innovation Week Shibuya」。当初はリアル開催でしたが、2020年からはコロナ禍でハイブリッドに切り替えられ、2021年には10万人以上が参加・視聴しました。『HELLO! IDEA.』というコンセプトのもと、「渋谷らしい多様な参加者が自由にアイデアを持ち込み、一緒に考えて実現する仕組みや場づくりもスタートしています」。
また、2020年5月には、KDDIとの協働により、日本初の自治体公認のメタバース「バーチャル渋谷」も立ち上げました。これは渋谷に遊びにきてもらうためのライブエンタメ・プラットフォームで、2020年のハロウィーン期間では約40万人、2021年のハロウィーン期間は約55万人が訪れたといいます。
「渋谷は日本を代表するブランド。それを、みんなと一緒にどう育てていくか、ものすごくエキサイティング。ここで新しい共創モデルが作れれば、他の地域の活性化や地方創生のヒントになります。すべての参加者が主役である点や、アセットやリソースを最大限に活用し、共感を生んでいく手法は、モノも街も同じです」。
1時間の講演の後、30分の質疑応答では会場の参加者とオンライン参加者の両方から多彩な質問が出て、長田氏と活発な議論が展開され、大盛況のうちに研究会が締めくくられました。

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